川根本町民インタビュー

【川根本町民インタビューvol.4】板谷康平さん(木こり 板山)

「この自然を使って遊ばないのはもったいない」

 

静岡県川根本町出身・2011年にUターン

 

川根本町の木こり、板谷康平さんは、おもに木の伐採業を生業としている。その仕事の規模はときにかなり大きい。たとえば、山ひとつ分を皆伐し平地にすることもある。まず現場を視察して、どこから木を切り始めるかの段取りを練る。切り倒した木が、ランダムに重なるのと、並列に重なるのとでは、まるで効率が異なるからだ。木は重機で集積し、枝を打ち落とし、約4メートル間隔に刻む。造材と呼ばれるこの作業をつうじて、樹木は木材となる。木材は他業者と協力しながら搬出する。これらの作業を総合して、彼は自らを木こりと称している。現在は独立して「板山」という屋号のもと個人で活動している。

 

木こりという言葉には、まだ母親から絵本を読み聞かせてもらっていた時代の陽だまりに似た記憶をやさしくくすぐるような、どこか昔懐かしい響きがある。川根本町に来て間もないころ、この町に木こりを名乗る人がいると聞いたとき、一種のときめきを覚えたのはきっとそのせいだろう。いま思えば、これはもしかしたら、あえて「木こり」を名乗るという、板谷さんの広報戦略にしてやられてしまったということなのかもしれない。でも同時に、話をうかがって思ったのは、伐採業に対する彼の姿勢には、子どものように天真爛漫な遊び心と、自然の神秘にひらかれた神妙な心持ちとがあり、それらの気分をとりこぼさない自意識の持ち方として、彼は彼自身においても「木こり」なのだろうということである。

 

すでに数か月間この町で暮らし、川根の風土を多少なりとも知ったいま、板谷さんがもつ自然への遊び心や神妙さといった気分は、この町がもつ要素のいくつか、あえて言えば中核に近いあたりにある要素のいくつかを代弁しているかのように思える。なにしろ土地の9割以上が森林なのだ。川根本町で生まれ育ち、自然のなかで遊ぶ時間をたっぷりと過ごした板谷さんが、いちど町外で暮らした後に里帰りをし、そして木こりになったことは、ある意味でとても自然な成り行きなのかもしれない。先日、私の家の裏の木の伐採をお願いしたことがあったが、思いつくまま、伐倒した木で土の斜面に階段をつくってくれた。あのワクワクは、ちょっとほかにない。

 

 

里帰りして、伐採業と出会う

 

- 木を切る仕事を始めたきっかけはなんだったんですか?

 

そもそもは川根高校を出てから、静岡市のリハビリの専門学校に行ったんだよ。身体に関わる仕事がしたくて。じっさい2年くらいは静岡市で介護系の仕事をして。

 

でも地元に帰ってきたいってのはずっとあった。川根本町が好きだったから。あとちょうど子どもが生まれるタイミングで、子育てを川根でしたいっていうのもあって。自分もおやじとおふくろにこっちで育ててもらったけど、自然の環境がいいなって思っていてさ。

 

川根に帰ってきてまずは、仕事を探すんだけど、専門で勉強したような仕事はなくて。結局、おやじが勤めていて、おふくろの実家でもある、久野脇の諸田製茶にはいることになった。

 

諸田製茶のなかにお茶部門だけじゃなくて、伐採業を引き請けている林業部門があって。けっきょくお茶って冬場の仕事がないから、その代わりとしてできたんだよ。そこで働いているうちに、林業、伐採業に興味が出てきた。

 

- どんなところに興味が湧いたんですか?

 

自分で言うのも何なんだけど、俺ができるだよね。段取りが得意なんだよね。木の状況を見て、重心を見て、それをどこに倒したら効率がいいかとかを考えて。頭のなかでパズルしている感覚なんだけどさ。すべての段取りと自分の技術がバチっと噛み合ったときの脳汁はヤバいよ。ほら見たことかあ!って。

 

それでいろんなところに林業の仕事で行っていたときに、草刈りとかを扱っている静岡の会社から引きぬきにあって。その会社自体もできたばかりで若手が欲しかったんだろうね。

 

- 草刈り、ですか?

 

そう。草刈りの仕事が結構あるんだよ。年間何千万円とか。年間の半分くらいは草刈りだった。伐採は残りの半分。

 

でも木を切る段取りが好きだったから、もっと木を伐る仕事をしたいと思うようになって。

 

針葉樹ってまっすぐ上に伸びるんだよ。だからわりとどこにでも倒せる。でもサクラとかシイとかの雑木って、枝が広がるから、大きい枝のついている重い方に倒れたがるんだよ。俺の場合は、マニアックな話だけど、ワイヤーで引き揚げながら切るとか、受け口という三角形の切り込みを入れてから反対側に追い口っていう切り込みを入れていくことで、180度の範囲内だったらだいたいどこにでも倒せる自信がある。

 

あと会社員によくある、俺もっともらってもいいんじゃないかなという不満があったりもして。それで2022年の1月1日に独立した。文句あるなら自分でやってみろよってマインドなんだよね

 

- そこは反骨精神というか。

 

レゲエを中学のころからずっと聞いていてね。レゲエってジャマイカの移民の音楽だから、反骨心みたいなマインドがあって。とくにCHEHONっていうアーティストの歌の反骨心にはめちゃめちゃインスパイアされていると思う。

 

独立して実際にやってみると、自分で営業かけないといけないとか、従業員を雇うお金のやりくりもしないといけないとかがあって、やっぱ会社とか社長ってすごいなって痛感させられた。でも、実際自分でやってやれないこともないなって気はする。稼ぎも3倍くらいにはなったしね。木こり、夢があるよ。

 

 

木こりという肩書き

 

- いまはどんな仕事が多いんですか?

 

まずは造成工事かな。どでかい工場を建てるために山の木を全部刈って、土を出して、山を取ってくださいとか。数年前だったら、大きいソーラーパネルを山一面に作るから切り拓いてくださいとか。土木の準備段階だね。

 

- なるほど。木を切ってそれを売るための仕事ではなくて、伐採後に建築物が立つ場所の整地というか。

 

砂場と一緒だよね。山を崩して谷を埋めて、平らにする。その大規模なやつ。期間が長いこともあるから、現場に泊まることもある。

 

でも最近はそれ以外の仕事もやるようになってきていて。アーボリストとか空師っていう職業があるんだけどね。たとえば、お寺の上にデカい木の枝が張っているとして、その枝をお寺の屋根を傷つけないように切り落とすという仕事なんだけど。木に登って、枝を上に吊り上げる。そしてジップラインっていう技術で、一本一本の枝を安全な側に渡していく。

 

- 初めて聞きました。どうしてまたその仕事を?

 

もともと知っていて興味があったし、それに仕事で木に関わっていると言うとさ、知り合いから「あの木を切ってくれない?」とかがあるわけ。でも、そういうのって家を壊したりするから切れないことも多い。じゃあどうやって切るかとなったときに必要なのがアーボリストの技術。だから会社を辞めたあとに、長野県まで行って勉強して資格を取ってきたんだよね。

 

ただ、これに関してはほんと始めたばっかだから、先輩らや師匠らに付いて勉強の日々だけどね。

 

- お話を聞いていると、たしかにいわゆる林業者とは仕事が違いますね。

 

そうだね。林業って言うと、植林されたスギとかを切って、木材業者に売って、また植林して、というイメージ。俺の場合は林業というか、木を切るところがメイン。

 

- それで木こりと名乗っていますよね。

 

誰かに自分が何しているかを伝えるときに、林業者って言うと広すぎる。でも木を切る人ではあるんだよ。それを万人にキャッチ―に伝えるには、木こりがいいかなって。それで木こりを名乗っているんだよね。興味をもってもらうフックにもなる。

 

- 木を切る人だから、木こり。シンプルだけど、たしかに僕も最初その言葉に引っかかりました。

 

いまは木こりを名乗って、インスタグラムで林業の面白さを発信してる。若手が入ってきてほしいというのもあるんだけど、あともうひとつは、インスタグラムから物販につなげたいんだよ。物を売りたいんだよ。自分が切ってきた木を使って、薪とかを作って、流通させたいもんで。

 

じつは伐採した木のうち売れない木は業者にお金を払って処分してもらうことも多くて。でも自分が切った木を、自分の家に持って帰ってきて、薪にするとか、木製製品にして販売するとかができれば、処分のために払ってたお金を払わなくて済む。製品にして売ったり、地域の薪を欲しい人たちと関わる媒体にできれば、さらにプラスになる。ただ処分してもらうのはもったいない気がしていて。

 

だから家の横に土地を買って、薪工場や加工所にする準備をしているんだけどさ。農地申請がこの前通ったから、これから作っていこうとは思っている。

 

物を売っていくためにはファンを増やしていかなきゃならない。いまはそのための準備段階として、自分のキャラの位置づけを構築しているところ。インスタではバカらしく書いてはいるけど、林業のおもしろさを伝えていきたい。おもしろがってもらうためにも、ちょっとバカっぽいスタンスでやってるんだよね

 

-こんなことを言ってはなんですが、とても意識的にやっているんですね。

 

そうそう、わりと意図的に戦略的にね。あんまりそういうのを言いたくはないんだけどね。

 

 

切り株の上の世界

 

- 僕も自然は好きなんですが、板谷さんのように森の中に入って木を自分で切るという世界線で過ごしていると、自然や世界の見え方はどんなふうになるんでしょう?

 

職業病としては、神社とかお寺に行くと、この木はどっちに倒れるか、俺ならどう倒すかということを考えちゃうかな。あとは、木を切るっていうのは木を殺しているわけだから、感謝はしなきゃいけない。たまに、たぶん祟られて早く死ぬんだろうなとか考えちゃうときもある。

 

あと俺の癖として、太い木をぶっ倒したら切り株の上に立っちゃうんだよね。そこに100年物の木が立っていたとしてさ、100年間その場所には木が立っていたんだから、木の位置には誰も立ったことがないわけだよ。でも切った切り株に俺は立てる。全世界中で誰も立ったことのない場所ってあまりないと思うけど、切った木の切り株の上は前人未踏の地なんだよね。

 

それに、その木が100年間見てた景色を、感謝の意味も込めて、すこしでも感じたいんだよ。

 

これを言うと、何言ってんの?!とか思われるだろうけど、この木は100年間どういう景色を見てきたんだろうってさ。太い木を倒せば倒すほど、俺のなかに秘める何かが、俺を切り株の上に立たせるんだよね。そうすると自分のなかでいろいろな考えがめぐる。100年前の日本やこの土地ってどうだったんだろうとか。

 

- たしかに林業って時間幅がその規模ですよね。農業が1年サイクルだとして、木は植林してから伐採するまで60年くらいはかかるわけですし。

 

そう。スギやヒノキはね。でも俺たちの場合は、植林ではない天然の山を皆伐する仕事だから、100年200年の木もざらにあって。

 

- となると確実に戦前からある。

 

それを倒してしまうという罪悪感もあるけど、最大限の感謝を込めて、そこに俺は立ちたいと思っている。

 

 

川根生まれの自然児として

 

- もう10年のキャリアになるわけですが、板谷さんにとって伐採業というのは何なんですか?

 

もちろん段取りが得意で好きというのもあるんだけど、この業種自体が外仕事じゃんね。自然を相手にしているから、人間関係で病んじゃうということもない。それに、いまは独立したから好きな仲間と好きなように仕事ができる。はんぶん趣味の延長というか。ほんとうに毎日楽しいでしかない。たしかに外仕事業種の中で、林業は死亡率が一番高いんだよ。でもやり方をちゃんとすれば、こんなおもしろい仕事はないと思う。

 

- 子どものころも自然のなかで遊ぶ子だったんですよね。

 

そうね。実家の横がすぐ川だし、裏がすぐ山だしさ。親が自由にやらせてくれた感じはあるかな。

 

この自然を使って遊ばないのはもったいないっていうマインドがある。自分の子供も川遊びに連れて行ったり、家の裏の木にロープとタイヤ吊るしてブランコ作ってやったり。

 

はたから見たらバカらしく見えるかもしれないけど、俺にとっては「バカだな」って最高の誉め言葉なんだよね。志村けんが大好きでさ、志村けんの言っていた、バカは褒め言葉だ、というのは俺もほんとうにそうだと思っている。

 

- これからも川根で暮らしていくんですか?

 

家も建っちゃったし、家の横も造成して薪工場と事務所も作るし、俺はここに骨をうずめるつもりでいるよ。

 

- 独立する方ってたいていそうなのかもしれないけれど、自分にとっていちばん気持ちいい在り方が見つかっている印象を受けますね。

 

そうかもしれない。いまの俺の要素を言うと、家族・木こり・レゲエ。それでもう全部。この三本柱。シンプルにそういう人間かな。あとはみんなにおもしろおかしく、木こりとかレゲエの良さとか、川根本町の良さが伝わっていけたら最高。

 

あとは将来的にやりたいことでいうと、マルシェがやりたい。家の横の土地を造成したら、飲食の人に店を出してもらって、自分も木製製品を売ったり、ワークショップをしたり、あとはレゲエのアーティストを呼んで歌ってもらったり。それがほんとうに目標。

 

- 応援しています。お話ありがとうございました。

 

 

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Contact

板山 Instagram

(木こりとしての作業風景を動画でおもしろく紹介してくださっています。じっさいの伐採業の様子というのは、どうしてもインタビューの文章だけではお伝え出来ない部分が大きいので、インタビュアーである私としても、ぜひ一度ご覧になっていただけるとたいへん嬉しく思います。)

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(インタビュー・文・写真:佐伯康太

 

※板谷さんが伐倒し製材した木材は、ゆる宿Vokettoの内装や家具に使わせていただいております。お泊まりの際はそちらもあわせてもお楽しみください。

 

※前回のインタビュー

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